書籍紹介『学んでみると生態学は面白い』

   2018/03/13

学んでみると生態学はおもしろい (BERET SCIENCE)』(伊勢武史 著、ベレ出版)の書籍紹介です。専門書とはちょっと違った、おそらくは一般向けの本ですが、統計数理研究所の公開講座で参考書として挙げられていました。

この本には個人的にかなり強い思い入れがあるのでぜひ記事を書きたいと思っていました。
後述しますが、この本にはロトカヴォルテラ系が登場します。この本を読む前からロトカヴォルテラ系については知っており、いろんな本に登場するのも知っていました。大体の本では微分方程式の線形安定性解析の章において、純虚数固有値が出てくる例として引き合いに出され、閉軌道を描きます、という感じで紹介されているような印象です。
この本では2種の個体数変動を、横軸に時間をとってプロットし、生態学界隈では有名なリンクスとカンジキウサギの実データと比較してくれていました。これを目にして「簡単な仮定から導出した微分方程式モデルが自然界の本質的な一面を見事に抽出している」ということに感動し、さらに力学系にハマっていくことになりました。

脱線しましたが、以下当該書籍の内容について紹介していきます。
強く印象に残っているのが4、5、6章であり、個人的にはメインはこの辺ではないかと考えているのでこの3つの章が紹介の中心になることを最初にお断りしておきます。

「生態学とはなんなのか」というところから話が始まります。正確な生態学の定義や、いわゆる生物学との違いが述べられているのが印象的でした。また、「ニッチ」という単語(この本を通して、ニッチという概念は生態学において結構重要な概念ととして扱われていた気がします)の紹介や、自然淘汰の話が盛り込まれています。

続いて、生態学のひとつの重要な視点として動物の個体数について考えていこう、という立場から個体群生態学と群衆生態学の話題に移ります。これが4、5、6章です。この部分について少し詳しく述べていきます。

4章は個体群生態学の章であり、微分方程式が登場します。しかし、非常に丁寧に言葉を添えてくれているので全く身構える必要はありません。この姿勢はこの本を通して著者が気を遣っている部分ではないでしょうか。数式や数学的な考え方が登場するところではしっかりとしたフォローがついています。
この章では指数関数モデル、ロジスティックモデル、環境容量について学ぶことができ、少しだけ時間遅れの考え方も登場します。章の最後では1種系モデルから2種系モデルへの拡張について自然な導入がなされます。
個体群動態学の基礎的な考え方を学べるのはもちろんのことですが、数理モデルの立て方、結果の検討、モデルの再構築という一連の思考プロセスについても学べる章だと思います。

5章は4章からの自然な拡張として捕食者・被食者系が学べます(タイトルとしては群集生態学となっています)。この章でロトカヴォルテラ系が登場します(が、ロトカヴォルテラ系として紹介されていたわけではなかったと思います)。連立微分方程式が登場し、ヌルクライン解析の方法を学ぶことができます。先述のように、ここではリンクスとカンジキウサギの実データも登場し、数理モデルの解析結果と比較することができます。ロトカヴォルテラ系に対して実データも提示してくれている書籍はあまりないような気がします。

6章は5章と同じ群集生態学ですが、ここでは競争関係にある2種系のモデルが紹介されています。パラメータの設定による相図の定性的な違いや解の収束先とその意味について丁寧に解説されています。

本の後半では生物多様性や行動生物学、物質循環などが盛り込まれており、シャノン指数や炭素循環に関する微分方程式などが登場します。

内容としてはかなり広範囲をカバーしていると思いますが、章ごとに「どんな立場から生態学を見てみるか」ということについて明記されていますし、丁寧な解説やイメージの持ち方、グラフが用意されているのでとても読みやすいと思います。

生態学の導入としてはどんなバックグラウンドの人でも手にとりやすいと思いますし、僕みたいに多少数学的な内容に関して知っている人でも楽しめる本だと思います。3,4時間もあれば読めるのではないでしょうか。おすすめの一冊です。

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