力学系とそこからの本いろいろ

 

力学系が勉強できる本と、力学系を一通り勉強したあとに読むと楽しいんじゃないかなっていう本をいろいろ紹介してみます。なお、ここで紹介している本については、すべて所有してはいますが、かじり読みしたものや辞書的に使っているもの、または完全に積ん読になっているものも含まれていることをご了承ください(早く読まないと...)

力学系が勉強できる本

まずは力学系関連の本から紹介していきます。

Hirsch・Smale・Devaney 力学系入門 ―微分方程式からカオスまで―
Morris W. Hirsch・Stephen Smale・Robert L. Devaney (著)、‎ 桐木 紳・三波 篤郎・谷川 清隆・辻井 正人 (翻訳)、共立出版
有名どころではないでしょうか。これの第二版が僕が初めて読んだ力学系の本です。学部3年時に自主ゼミで使用しました。微分方程式や線形代数のちょっとした復習から始まりますが、あくまでも力学系と絡めて話を進めてくれています。理論的な部分をやったあと、本の後半では生物学・回路理論・力学への応用についてもそれぞれ章が設けられています。終盤では離散力学系とカオスについても触れられています。副題の通り、まさに「微分方程式からカオスまで」やってくれている本です。入門書としても、2冊目以降としても利用できる本ではないでしょうか。ただし、線形代数と微分方程式について多少の知識があるほうが良いことと、カオスの本ではないことには注意したほうがいいかもしれません。詳しくはこちらも参照していただけると嬉しいです。

Nonlinear Dynamics and Chaos: With Applications to Physics, Biology, Chemistry, and Engineering (Studies in Nonlinearity)
Steven H. Strogatz (著)、Westview Press
こちらも有名な書籍。「ハーシュの力学系入門を読んだが若干消化不良だった」と先生にこぼしたところ薦められました(和訳が出ていないが第二版が望ましい、と言われました)。とにかく具体例と演習問題が豊富なところが特徴だと思います。いわゆる理工書のように、定義、定理、そして具体例がときどき、というような構成ではなく、具体的な現象や式を通して力学系を体験・実感していく、といった構成になっています。話題が豊富ですし、カオスに関してもそこそこのページ数が割かれています。かなりとっつきやすい印象を受けます。「数学的にカッチリ力学系をやりたい」という方にはちょっと不向きかもしれません。

基礎からの力学系―分岐解析からカオス的遍歴へ (SGC BOOKS)
小室元政 (著)、サイエンス社
僕が持っているのはこの本の元となった臨時別冊の方ですが、現在は新版として画像のものが出版されているようです。大学の授業でも力学系の参考書としておすすめされていました。「力学系興味あるけどな~そんなにがっつりやるよりちょっと味見したいな~」と思っている方にはちょうど良い分量ではないでしょうか。内容としては、副題の通り、分岐に関して著者の熱意が感じられます。力学系が分岐を起こすとき、ポアンカレ断面では何が起こっているのかを図をふんだんに用いて解説してくれています。イメージが持ちやすく、読んでいて楽しかったです。これはこの本の特徴と言えると思います。最後に「区分線形力学系」と「カオス的遍歴」の章がそれぞれ設けられていますが、このあたりの話題はこの本で初見だったように思います。詳しくはこちらもどうぞ。

Nonlinear Oscillations, Dynamical Systems, and Bifurcations of Vector Fields (Applied Mathematical Sciences)
John Guckenheimer・Philip Holmes (著)、Springer
僕が「とりあえず力学系の最初のゴール」として定めている本。大学でも二つの授業で参考図書として挙げられていました。第一章で力学系の主要な結果の概観がなされ、第二章ではカオスについて具体例を4つ挙げて導入。その後は分岐やカオスに関して数学的に突っ込んだ内容となっています。平均化法と摂動法に関する章も設けられています。分岐に関して結構な量の記述がある印象です。分量と内容的に、この本を力学系勉強の1冊目とするのはなかなかチャレンジングな気がしないでもないです。ゼミ本にしてみんなでじっくり取り組むとかならいいかも?

カオス 第1巻カオス 2 力学系入門カオス 第3巻―力学系入門
K.T.アグリッド・T.D.サウアー・J.A.ヨーク (著)、津田一郎 (監訳)、丸善出版
原著は『Chaos: An Introduction to Dynamical Systems (Textbooks in Mathematical Sciences)』で、1冊にまとまっています。写像→カオス→微分方程式→カオス→分岐、というのがざっくりとした流れ。先に写像の話を出しているのは珍しい気がします。この本は、力学系をやって、その延長上としてのカオス、というスタンスではなく、全体を通してカオスが意識されている印象。都度、理解を助ける具体例や練習問題が配置されていて読みやすいんじゃないかと思います。第3巻の内容がこの書籍に特徴的な気がしていて、安定多様体とクライシス、カスケード、データからの再構成などが収録されています。また、発展的な話題が章末に載っていて、少し難しい話や実際の研究例などにも触れることができます(個人のレベル、もしくは目的に合わせてスキップしても通読に差し支えはありません)。

非線形の力学系とカオス
S.ウィギンス (著)、丹羽 敏雄 (監訳)、丸善出版
僕が持ってるのは上下組のものですが、現在は1冊にまとめられた新装版が出ています(でかくて分厚いです)。こちらも力学系の書籍としてはいろいろなところで紹介されているものです。内容はかなり本格的だと思います。第一章が力学系理論の復習として用意されていますが、まえがきを読むと筆者としては非線形力学を学ぶにあたってある程度の前提知識を望んでいるようです。第二章では「力学系を簡単にする方法」として中心多様体と標準形の話が盛り込まれています。第三章と第四章は分岐の話です。500ページを超える下巻がまるまる分岐に割かれています。個人的には第二章の内容がこの本に独特なものに感じられます。力学系を一通り勉強したあと、もっと掘り進みたい人は一度手に取ってみてはいかがでしょうか。

力学系から広げていけそうな本

ここからは「力学系を勉強したあと、力学系に興味を持ったあと、その知識や好奇心を活かせそうな本」を紹介していきます。

数理生物学

数理生物学入門―生物社会のダイナミックスを探る
巌佐 庸 (著)、共立出版
内容は副題の通りで、マクロな生物学や生態学に焦点が当てられています。話題が本当に多岐に渡っています。三部構成になっていて、第一部は個体群動態学(力学系や拡散系など)、第二部は行動生態学・社会生物学・進化生態学(最適制御理論やゲームモデルなど)、第三部は群集生態学(力学系など)といった感じです。生態学に対して様々な数学的道具が登場します。読みたい章に登場する道具の前提知識を持っている、もしくは参照できる本を横に置いておく、といった状況が望ましいでしょう。好きなところから読んで問題ないと思います。また、各章末には、さらに詳しく学びたい人向けの参考文献も丁寧に記載されています。

マレー数理生物学入門
James D. Murray (著)、三村 昌泰 (監修・翻訳)、‎ 瀬野 裕美・河内 一樹・中口 悦史 (監修)、丸善出版
数理生物学の話題で調べものをするときまず手に取るのはこれです。数学的知識としては、常微分方程式系に関する線形安定性解析がわかっていればほとんどの章に対応できると思います(補足説明がないわけではありませんが、数学的内容に関しては別途こしらえておいた方が断然読みやすいはずです)。数理モデルの解析に関しても、実際の事例に関しても、かなり丁寧に記述されています。こちらの本も読みたいところから読んで問題ありません。

複雑ネットワーク

複雑ネットワーク―基礎から応用まで
増田 直紀・今野 紀雄 (著)、近代科学社
複雑ネットワークに関する書籍ですが、「ネットワーク上の感染症伝播」と「ネットワーク上の同期」という章がそれぞれ設けられています。ネットワーク上でのダイナミクスに関する内容が収録されている本はあまり見かけたことがなく、日本語で読めるものはさらに見かけたことがないので重宝しています。複雑ネットワークに関する1冊目の本としても読むことができると思います。詳しくはこちらもどうぞ。

Dynamical Processes on Complex Networks
Alain Barrat・Marc Barthélemy・Alessandro Vespignani (著)、Cambridge University Press
「ネットワーク上のダイナミクスに関する話題に興味がある」と先生に話したところ教えていただいた本。日本語のものに限らず、こういった方向性の本はあまり見かけないので上記の1冊とともに重宝しています。最初の方に通常の複雑ネットワーク理論の章がいくつか設けられていますが、それらについては既知であれば飛ばして大丈夫でしょう(僕は飛ばしました)。まだ牛歩で読み進めている最中なのでなんとも言えませんが、もしかしたら統計力学の知識があったほうがいいかも...?(と言いつつ「どうにかなるだろ」の精神で進んでますが。)話題は豊富で数学的にもちゃんと書かれているようなので、しっかりと読みこなしたいと思っている1冊です。

Dynamical Systems on Networks: A Tutorial (Frontiers in Applied Dynamical Systems: Reviews and Tutorials)
Mason Porter・James Gleeson (著)、Springer
こちらは、ネットワーク上のダイナミクスという分野にはどんな話題があるか、そしてそれらの話題はどの論文で読むことができるか、ということが書かれた本です(ちょこっとだけ数式が出てくる場面もありますが、いわゆる理工書ではありません)。話題の探索と論文へのアクセスに関してとても頼れる1冊。

同期現象

生物リズムと力学系 (シリーズ・現象を解明する数学)
郡 宏・森田 善久 (著)‎、三村 昌泰・竹内 康博・森田 喜久 (編集)、共立出版
次に挙げる『同期理論の基礎と応用』と併用で読み進めている本。
「現実世界にあるリズム現象・振動現象の紹介」→「力学系の考え方の紹介およびリミットサイクルの導入」→「位相方程式と同期現象」→「位相に関する力学系理論」の4章構成です。力学系の知識があれば3章から読んでも大丈夫でしょう。全体的に記述が簡潔でスッキリしているイメージ(ですが具体的な計算もしっかり載せてくれています)。

同期理論の基礎と応用 数理科学、化学、生命科学から工学まで
Arkady Pikovsky・Michael Rosenblum・Jurgen Kurths (著)、徳田 功 (訳)、丸善
3部構成。第1部は数式を用いないでいろいろな同期現象を紹介。第2部では位相の概念を導入し、その考え方を用いた数式による同期現象の解析。第3部ではカオスシステムの同期に言及。実際の問題や研究を例にとった説明が非常に豊富です(『生物リズムと力学系』においても具体例が豊富な参考書籍として紹介されています)。先述の『生物リズムと力学系』で「もう少し例だったり実際の事例をみたいな~」とか思ったときにこっちを開いてます。

おわりに

いかがだったでしょうか。この記事が少しでも力学系やその周辺の本選びの参考になれば幸いです。

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